03

 クラスが変わって一ヶ月。相庭が愛と付き合い始めたと聞いてから三日。
 私は初めて、「ああ、こいつら本当に付き合ってるんだな」と納得する場面に出くわした。
 別に抱き合っていたとかキスしていたとかではない。ただ、廊下で二人で会話していた。ただそれだけだ。
   それだけなのに、あまりに見慣れない光景に私は動揺した。そこにいたのが、杏子や私だったら普通の友達同士の会話だけど、ヤツと相庭じゃそれが不自然だ。
 愛は見た目通りハデだし、チャライ。対して相庭は極々普通、それも地味よりの普通さだ。
 そんな二人のタイプが違うことぐらい見たら分かった。だから二人が付き合ってるだなって分かった。
 なんだろ。目頭がジーンてする。このままだとヤバい。
 急いでさっき帰ってきたトイレに逆戻りした。
 なんで、愛なんだろう。
 なんで、私じゃないんだろう。
 ――あいつは、愛のことが好きなんだろうか?

 トイレから戻ると、ちょうど向こうから相庭が歩いてくるのが見えた。ボーっと突っ立てると、相庭も私に気づいたようだ。
「よお」
「ん。――聞いたよー。愛と付き合いだしたんだってね」
 努めて何事もないように会話する。スルッととヤツのことを口にしたのはさっきまでそんなことを考えていたからだ。分かっているのに、止まらなかった。
 なぜって気持ちが。
 愛のことを話題に出した瞬間、相庭は苦笑した。
「ああ、もう知ってるのか。女子の情報網ってはえー」
「いつから付き合いだしたかなんて私も知らないけど、私は杏子から三日前に聞いたよ」
「あいつはどこから聞いてきたんだか……」
 愛が言いふらしてんじゃね、とはここでは言わない。
「まあ、相庭が愛と付き合うのは少し意外だったけどね」
 にっと意地悪な顔で笑ってやる。……本当は少しどころか大分意外だったけど。
「それは俺も同じ。まさか、告白されるとは思わなかった」
「……ふーん。それでよくOK出したね」
 心臓の音がうるさい。こんなこと聞かなきゃいいのに、なんで聞くんだろ。
 好きだからって言われたらどうするんだ。私は言われたいのか?
「まあ、おれは今まで彼女っていなかったし。告白されて悪い気分でもなかったからな」
「はあ」
 間抜けな声が出てしまった。
 それは、好きでもなんでもないってことか?しかし、そんなことを今聞いても、こんな誰が聞いてるかも分からない場所で相庭が是と答えるわけがないということも分かってた。だから聞かない。
 もし私が先に告白していたら?
 それこそ愚問だ。
 私は、告白しようとも思っていなかったのだから。
 ただ「好き」という気持ちを積もらせていただけだ。
 私はただ偽りの笑顔を浮かべて相庭と会話をしていた。


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