その十三、 長くなるのでここはスッパリ短くご報告です。

 彼方が現れた瞬間、永羽は「ああ、今日の幸せの一時も終わってしまったのだな」と理解し、本能的に席を綾人の隣に移動した。そして、永羽がいた席にはあたり前のように彼方が座り、おどおどしている小織を目で促して座らせた。
 サタンは目だけで人を操ることができるのでしょうか。
「はあ、なんで彼方達がここにいるの?」
 綾人は運ばれてきた料理には手をつけず、ドリンクバーから持ってきたウーロン茶を飲みながら彼方を見、ちらっと小織を一瞥する。
 彼方は右腕を大きく背もたれ、小織の後ろに回した。あいかわらず傲慢無礼な態度で不敵な笑みを浮かべている。
「べっつにー?ここに寄ったら、偶然お前らがいただけだけど。な?」
「うっ、うん」
 可哀想に。小織はうさぎのようにプルプル震えているではないか。彼方はこの状態の彼女を今まで連れまわしていたのだろうか。永羽は哀れみの視線を小さくなっている先輩に送った。
「何していたかしらないけど、野館さん連れ回すのやめときなよ。そして、さっさとこの場から立ち去れ」
 綾人も小織に同情したのか、はたまたとっとと彼方を追い払いたいのか(おそらく後者だろう)、シッシと犬を払うように彼方に手を振った。
 彼はキャラが崩れかけていることに気づいているのか。しかし、体面を保つ必要がある永羽には、彼方にそんな態度をとれるなんて、と尊敬の眼差しを送られているからそんなに問題ではないのだろう。
「連れ回すってお前。自分の彼女とデートしてて何が悪いんだよ」
「だから、野館さんをだな……って」
「はあ!?」
 声を上げたのは永羽である。綾人はぽかんと口を開いている。
「か、彼女……?」
 永羽は小織を指さしつつ訊ねる。
 小織は自分に訊かれたか彼方に訊かれたのか分からなかったが一応答えた。
「い、一応」
 その返答は彼女自身も自覚していないかのように、首を傾げて答えた。