遠藤尚久(えんどうなおひさ)には一つ年上の彼女がいる。それも幼馴染。
 恋に堕ちてから約二十年。ようやくこの想いが報われたのはバレンタインを過ぎた後だった。
 おかげで今年のバレンタインも義理チョコ。本命をもらうのは来年まで待たなければならない。
(てか、来年まで続くか俺!?)
 尚久の彼女蕪木四葉(あきよつば)はよく笑う、笑顔が可愛い女性である。俗に言う癒し系。ポワーンとしているようでしっかりしていて、高校時代ではそうでもなかったけれど、大学に入ってから彼氏が出来るようになった。尚久の知る限りでは三度男が変わっている。それに何度尚久が泣きたくなったか。しかし、一度彼氏の内の一人に二股をかけられたらしく泣いていた彼女を目の前にして、泣くことなどなかったが。
 それからガードが固くなった彼女を必死の思いで口説き落としたのだ。本命ではないが、チョコはもらったわけだし、自分の気持ちもしっかり伝わって欲しいと思った。

 *ここから尚久の一人語らいになります。

(そもそもホワイトデーって何すればいいんだ?今までは普通にクッキーとか飴とか上げてたけど、一応彼氏に昇格したわけだし、そんなわけにはいかないよなぁ。バレンタインのお返しは三倍返しってよく言うけど、それって普通に考えれば割に合わなくないか?チョコ一個いくらだよって話だし。でも『私にたいする愛情ってそんなもん?』とか言われたらなんも言えねーし。……いやいやいや!四葉はそんなこと言わないはずだ。そもそも物欲ってもんもあんまねーし。ん?それはそれで困るんじゃね?何上げたら良いか分かんねーし。いや、待て俺。誕生日じゃねーんだから、欲しいもの上げる必要ねーんじゃねーか?うん、たぶん。じゃあ、何すればいいんだ?やっぱあれか?定番の薔薇の花束とか?……柄じゃねーし、四葉に薔薇も似合わねーよな。あんな豪華なやつじゃなくて、もっとこう、清楚なやつ。うん。これは花屋に言って相談してみよう。後はなんだ?やっぱり、レストランとかホテルとか、か?前の彼氏のこともあるだろうし、なかなか手出せないなぁとか思ってまだやってないけど……ここらで攻めてみたいなーってのが本音なんだよな。レストランの夕食付のホテルでも後で検索してみるか。どこらへんがいいかな。海は定番っちゃ定番なんだけどな。個人的に海は泳ぎに行くもんであって眺めるもんじゃねーんだよなぁ。どっかテーマパークの近くのホテルにするか?いや、そう言えば、前四葉ところのおばさんが、今四葉いろんなところの温泉の入浴剤集めてるって言ってたな。……温泉にするか?いや、ホワイトデーに温泉ってどうよ。でも、四葉の浴衣姿見たいし。う―――――ん。まあ、ケーキ屋でそれらしいもの買って、夕飯食べ終わった後に渡すか。うん。そうしよう。そうと決まれば温泉はどこにするかな。伊豆辺りでいいかなぁ。近場って言えば近場だし。てか、俺金あったかな。たしか、四葉と付き合うことになってからいろんなことに備えて、四葉に会う時間も作れるように時給の良いバイトに変えたから、 多分そこそこある、と思う。いざとなったら、篤(あつし)に借りるか。あっ、もう予約とか取った方がいいかな?たぶん十四日とか即埋まる気がするんだよな。でもホテルとかじゃないし大丈夫か?今から調べてみるか)

 思い立ってパソコンのあるリビングに行こうと振り返ると、そこにはいつからいたのか、弟の篤の姿が。
「うわっ。お前、いつからいたんだよ」
「『来年まで続くか俺!?』ってあたりから?」
 しれっとそんなことを言う弟に、尚久は眩暈を覚える。
「最初っからじゃねーか。お前、このこと四葉に言うなよ」
「言わねーよ。聞いてた方が恥ずかしいぜ。そんな独り言」
「なら聞くなよ」
「好きで聞いたんじゃねーよ。つーか」
 そこで言葉をきると篤はにやっと笑い、
「はりきりすぎじゃね?」
 と言った。
 それには薄々自分でもそう思っていたので、「悪いか」と赤く染まった頬を俯いて隠して言うことしかなかった。
 それに篤はにやにや笑った。
「べっつにー。あっ、人の金に頼ろうとするなよ」
「……足りなかったらでいいから」
「いやでーす」
 そう言って部屋から出ていった弟を睨みつけながら、尚久は日払いのバイトを入れようと決意するのであった。


ホワイトデェイ企画TOP