右に二つ、左に三つのピアス。首や指にはシルバーアクセサリー。紙は短めの髪を立たせた黒髪(以前は赤髪だった)の彼、山内圭(やまうちけい)は世間一般的に見れば明らかに不良と呼ばれる人間だ。
圭は群れることを好まない。学校でも仲が良いのは片手に数える程度で、常に不機嫌そうな彼の表情がさらに人を近づきにくくさせている。
圭は学校で夜な夜な喧嘩をしているとか、族の総長をしているとか、実はやくざの息子だという噂がある。喧嘩をしているのは事実だが、総長だとか(総長の知り合いはいるが)やくざの息子だというのはデマである。
そんな圭にめったに人は寄って来ない。いや、寄って来なかったはずだった。
それが変わったのは去年の二学期が始まってすぐだった。一人の女生徒が何故か目をキラキラさせて話しかけてきたのである。その時の圭はと言えば、まさに宇宙人に遭遇したような心境だった。
彼女は自分の名前を名乗り、テンション高く一人でしゃべって勝手に帰って行った。訳が分からず呆然としたが、どうせ今回限りだろうと思って次の日には忘れていたのだが、彼女は次の日にも姿を現した。と言うか、姿を見かける度話しかけてくる。それはただの挨拶だけの時もあるし、テンション高く一人しゃべっている時もある。しかし、圭もいい加減それになれ相槌や軽い会話を交わすようになった。
「…………」
今圭は、あるコンビニの一角を睨みつけて、否見ている。
《White Day》と書かれたコーナーには一ヶ月前には確かチョコレートがぎっしり並んでいた。
「…………」
圭は買おうと思った雑誌を片手にレジの前に突っ立っていた。
《White Day》のコーナーに柄の悪い不良が一人。
コンビニ店員は密かに、不似合いな、なんてことを思っていたがそこは顔には出さずに笑顔で接客している。
「…………」
一方圭が考えることは、いつも無駄にテンション高く話しかけてくる彼女のことだった。
実は圭、その女生徒にバレンタインにチョコレートをもらっている。別に付き合っているわけでもないし、彼女が手渡して来たのも手の込んだ手作りチョコなのではなく市販のチョコレートだった。
「…………」
しかし、圭は照れながらチョコレートを渡した彼女の顔を思い浮かべて思案する。ホワイトデーに何か渡した方がいいのかと。
「…………」
圭は考える。じっくり考える。眉間に皺を寄せておよそ三十分考えて圭は五十円の二つくくりになったハートの飴を手に取って雑誌と一緒に会計を済ませた。
彼女は高校で友人以外に初めてまともに話した人物である。人との接触が少なかった圭に友人らはいい傾向だと言っていたし、圭自身も少なからず感謝している。それに少しだけ、彼女のあのはずかしそうな笑顔がもう一度見たいと思った。あくまで少しだが。
圭はそんなことを考えながら、来るホワイトデーに備えるのであった。
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