Will be....



金見安菜(かなみあんな)。十七歳。

『面倒臭いんだよ、お前』

クリスマスの前日彼氏に振られました。


ジングルベルの音楽が弱った心にしみる。
彼氏に振られたのになぜ恋人達が集うクリスマス色の街に繰り出したのだろうか。虚しいだけなのに。
「・・・・・・義人のばか」
中央広場に飾られている巨大なツリーを睨み付けながら安菜は言った。
踵を返し、映画館の方向に足を向ける。前もって席を指定しておいたのだ。観に行かないと勿体ないだろう。
あいつは来ないけど。
義人と付き合い始めたのは一年前。去年のクリスマスも映画を観て、食事、買い物。今回の映画はラブストーリーだったのだけれど。
予想した通り、映画館はカップル人口が嫌と言うほど多い。友達や家族連れで来ている人達もいるが安菜のように一人で来ている者はいない。
(あっちもカップル。こっちもカップル。うざいったらありゃしない)
そんなふうに思っても、所詮は独り身のひがみにしか聞こえない。
途中で彼女の方がこちらを見て、彼氏になにか囁いている。何を言っているのか大体は想像出来る。 『ねぇねぇ、あの人一人で映画観に来てるよ。寂しい人なんだねぇ』
こんなところだろう。
事実似たようなことを彼女は言っていた。
安菜はふん、と鼻を鳴らすとすたすたと中へ入って行った。

映画館から出た後、安菜はガードレ−ルに腰を掛け、しばらく空を見ていた。曇天の空だ。もしかしたら雪が降るかもしれない。
「なんであいつと付きあっちゃったんだろう」
安菜はぽつりと呟いた。
義人と別れたのは浮気が原因。今思ったら、確かに軽い男だったかもしれない。

『なんで浮気なんかしたのよ!』
安菜は珍しく人目を気にせず叫んだ。
義人と浮気相手を目の前にして。
昨日、安菜は義人が見知らぬ女と一緒にいるのを発見した。怪しく思って後をつけると。人込みの中、二人のキスシ−ンを目撃してしまった。
裏切り。
悲しみ。
憎悪。
喪失感。
それらの気持ちが胸の中で交差した。そして気付いたら二人の前に立ち、叫んでいた。
『なんでって・・・・・・』
義人は眉をひそめてゆっくりと語り出す。
『面倒臭いんだよ、お前』
瞬間、安菜の体に電流が走った。
『顔は悪くないけどさぁ、お前頭も性格もいいじゃん?バカな俺はなぜか気を使っちゃうんだよね』
褒められているのだろうが今の安菜にはばかにされているように聞こえた。
更に義人の言葉は続く。 『その上ガードも堅いときた。それじゃ、男は逃げるって』
安菜は顔を赤くして、唇を噛んだ。
こんなやつのために泣きたくない。
『そういうことだから、俺と別れてね』
『・・・・・・だ』
『は?聞こえない』
安菜は思いきり義人を睨めつけ、手に持っていた小さな紙袋を顔目掛けて投げ付けながら言った。
『こっちから願い下げだ!』
紙袋は見事に義人の額にヒットした。箱が入っているはずだからかなり痛かったと思う。
安菜はパンパンと手を払ってその場を立ち去った。
ちなみに、安菜が投げ付けたのは義人へのクリスマスプレゼントである財布だった。しかし、そんなものはいらない。
義人とももう、会いたくない。
付き合ったのはやっぱり好きだったから。
しかし、夜泣きながらクッションを殴っていたら意外に気持ちはすっきりした。
なのに・・・・・・。
安菜は思わず溜息をついた。
道行く人はみな幸せそうだ。大きな包み紙を抱えたサラリーマンらしき人物が目の前を通った。おそらく子供へのプレゼントだろう。朝起きたら枕元に大きなプレゼント。
安菜は立ち上がり歩き出した。
クリスマスのサンタに願うのは未来の幸せ。
(いつまでもいじけててもね)

今度こそ素敵な恋が出来ますように。
メリークリスマス。

小さな街に雪が振り出した。


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