engage ring



洋一はジュエリ−ショップを出た。
洋一は今日、クリスマスに自分の彼女麻実(まみ)にプロポーズしようと決めていた
しかし、不安な部分はやはり取り除くことができない。
洋一の容姿は黒縁眼鏡に短い癖のある髪。服もダボッとしたものを好む。つまり冴えない青年なのである。
そんな洋一の彼女に麻実はなってくれた。年上で勝ち気な女性である。
もしかして洋一のことを金づると思って付き合ったのかもしれない。遊びなのかもしれない。そんな思いが過(よ)ぎるから、不安にならずにはいられない。
洋一自身、何故麻実が付き合ってくれたのか解らないのだから。
(・・・・・・駄目で元々だ)
そんな思いで買ってきた指輪を見つめる。
と、その時自分の腕にはめた時計が目に入る。
洋一は自分でも血の気が引いたのが分かった。
時刻は九時半を廻っていた。麻実も社会人なので待ち合わせは九時と決めていた。その時刻を三十分も遅れている。
洋一は駆け出した。
癖のある髪がたなびく。
(ああぁ!!もんのすごく遅れた〜)
と、心中で泣きべそをかく。
その時、滅多に走らないことが災いして、というか持ち前のとろさからかなにもないところでつまずいた。
しかし、大袈裟に転ぶことはなかった。大柄のサラリーマンにぶつかったからだ。
しかし、丁寧に詫びている暇はない。
「す、すいません」
洋一はずり落ちた眼鏡を直してまた走り出した。
待ち合わせ場所の中央広場が近づいてきた。
白と青をべ−スとした巨大なクリスマスツリー。
その下で彼女が待っている・・・・・・はずである。
洋一はすぐにクリスマスツリーの側まで走った。そして、想い求めていた姿を懸命に探す。
そしてその場にしゃがみ込んだ。
彼女は。
「・・・・・・どうしたの?」
洋一の前には確かに彼女、麻実がいる。
大遅刻をした洋一を彼女は帰らずに待っていてくれた。
「遅かったじゃない。こっちは寒くて凍え死ぬかと思ったわ」
当然のように麻実はご立腹だ。
そんな彼女の罵声を洋一はただ笑うのみ。
「・・・・・・あ」
洋一は空を仰いだ。
空から降り注ぐのは柔らかな雪。
その雪は洋一の頬に落ちて溶け、そして消えた。その頬になにやら温かいもの。
「さて、早くディナーに行きましょうか」
麻実は自分が巻いていたマフラーを洋一の首に巻いた。その色は白。
降り積もるこの雪と同じ。
しかし、違うのは溶けないこと。彼女のこれは決して溶けることはない。温めてさえくれる彼女の気持ちに思わず感極まった。
「何、泣いてんの」
意地悪な瞳で彼女は言う。
「な、泣いてなんか」」
洋一は彼女に泣き顔を見られまいと必死に抵抗する。
その拍子に指輪が入った質素な紙袋が落ちる。
「何やってんの、全く。相変わらずドジなんだから」
麻実が指輪を拾おうとした。その手を洋一が握りしめる。
紡ぎ出された言葉は、 「結婚して下さい」
そして紙袋から指輪の箱を取り出す。
麻実は一瞬硬直状態になった。
そして、静かに頷く。寒空の下だというのに彼女の頬は真っ赤だった。
洋一は遊びかもしれないと彼女を疑ったことを恥じた。
その変わり、思いきり麻実を抱きしめる。

聖なる夜におこる小さな奇跡。出会い。
共に過ごす相手を大切に思おう。

メリークリスマス・・・・・・。



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